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青森地方裁判所 昭和49年(ワ)110号 判決 1978年5月16日

原告

逢坂富士子

被告

笹原重道

主文

被告は原告に対し、金二五二万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和四九五月一五日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訟訴費用はこれを一〇分し、その四を原告、その余を被告の各負担とする。

本判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金五七七万一、〇二〇円及びこれに対する昭和四九年五月一五日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件事故の発生及び原告の傷害治療経過

(一) 被告は、昭和四七年一二年一九日午前六時五五分ころ、普通貨物自動車(青一一さ二五五二)(以下被告車という)を運転して青森県東津軽郡平内町大字土屋字淀川三番地二号先の国道四号線を青森市方面から野辺地町方面に向け進行中、自車左側後部を原告に接触させ、この結果、原告は道路側溝に転倒し、腰部及び頸部捻挫、骨盤挫創等の傷害を負つた。

(二) 原告は次のとおり右傷害の治療を受けた。

また原告は後記坂田整形外科医院に入院する直前頃、関節ロイマを発病し、爾後は併せてこの治療をも受けたが、右関節ロイマは前記外傷が誘因となつたものであるから、これまた本件事故との間に因果関係がある。

(1) 昭和四七年一二月一九日から昭和四八年二月二〇日まで六四日間、金沢整形外科医院に入院。

(2) 昭和四八年二月二〇日から同年四月二六日まで六六日間、青森市民病院に入院。

(3) 昭和四八年四月二八日から昭和五〇年七月二六日まで八二〇日間、坂田整形外科医院に入院。

(4) 右退院後引続き現在に至るまで同医院に通院。

2  被告の責任原因

被告は被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により本件事故に起因して原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 治療費 四二万四、三二〇円

前記金沢整形外科に支払つた前記入院治療費。

(二) 付添看護費 七万六、八〇〇円

原告は右金沢整形外科に入院中、終始付添看護を要し、母貞子の付添看護を受けた。その費用は一日一、二〇〇円に相当し、その六四日分。

(三) 入院雑費 三六万八、五〇〇円

前記入院期間のうち、昭和四七年一二月一九日から本訴提起時である昭和四九年五月八日までの通算五〇五日間は一日三〇〇円の割合、さらに同月九日以降昭和五〇年七月二六日までの四三日間は一日五〇〇円の割合の入院雑支出を要した。

(四) 逸失利益 二九〇万六、四〇〇円

原告は、昭和四七年三月六日から成田歯科病院に看護助手として勤務し、本件事故当時本給二万六、〇〇〇円及び付加給三、〇〇〇円(いずれも月額)を受けていたものであるが、本件事故により入院休業したため、昭和五一年一〇月末日現在までに別表記載のとおりの収入を喪失し、合計二九〇万六、四〇〇円の損害を受けた。

(五) 慰藉料 二〇〇万円

原告は、本件事故当時満一九歳の健康な独身女性であり、本件事故による入院期間は二年七か月余にわたり、現在なお通院が必要で、後遺障害の認定も受けられない状態にある。右事情による原告の精神的損害に対する慰藉料としては二〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用 五〇万円

原告は原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その報酬として請求金額の約一割にあたる右金額の支払を約した。

(七) 損害の填補 五〇万五、〇〇〇円

原告は自賠責保険金五〇万円及び被告からの見舞金五、〇〇〇円を受領済みである。

4  請求

よつて、原告は被告に対し、前記3の(一)ないし(六)の損害金合計六二七万六、〇二〇円から填補金五〇万五、〇〇〇円を控除した残金五七七万一、〇二〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年五月一五日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、(一)の事実は、被告が原告に自車左後部を接触、転倒させたとの点を除いて認める。

同1、(二)の事実中、関節ロイマが本件事故と因果関係があることを否認し、その余は知らない。

なお、原告が本件事故によつて受けた負傷は遅くとも昭和四八年四月二六日(青森市民病院退院時)には治癒し、以後の入院加療は本件事故とは関係のない関節ロイマの治療のためになされたものである。

同2の運行供用者の事実は認める。

同3の事実中、(七)の事実を認め、その余は不知。

三  抗弁

本件事故は被告の過失によつて発生したものではなく、もつぱら原告の過失によるものである。

被告は、本件事故発生当時、最高速度の指定制限のない国道四号線上の本件事故現場に、法定の最高速度をはるかに下廻る時速約四〇キロメートルでさしかかつたところ、急に車道上一メートルの地点まで小走りに飛び出した原告を約九・七メートル先に発見し、そのまま直進させれば原告に衝突するおそれがあつたので、やむを得ず直ちにブレーキ操作をしたところ、偶々当時路面上に降雪があつたため、被告車後部が左方へ横振れし、後部荷台左側が原告に接触したものである。

被告としては制限速度を遵守し、前方を注視して走行していたのであり、原告が急に飛び出したことによつて生じた危険を回避するためには制動措置を講ずるほかなく、右の一連の措置において被告に責められるべき過失は存しない。責められるべき過失は前記のように被告車の進路直前の車道上に突然飛び出した原告にある。

四  抗弁に対する認否

原告が急に車道に飛び出したことは否認し、被告に過失がないとの主張は争う。

原告は国道四号線北側端から約七・四五メートル奥まつたところにある自宅玄関から国道へ向つて小走りに出て国道側端の歩道部分に至り、右方(青森方面)を見たら被告車はまだ十分遠方にあつた。そこで左方(東方)へ右歩道上を、原告自宅と東側隣地との境界付近から二メートルくらいのところまで歩いたが、そのとき被告車の警音器が二度鳴るのが聞えたので、被告車をやりすごすため歩道の側端に下がり車道に背を向けて立つていたところ、突然左腰後部のやや上あたりを強打され一回転して側溝に落ちたのである。

被告が原告を約九・七メートルの距離で発見したとすれば、原告が自宅玄関から国道に出るまでの間、国道西方路上から原告の姿をさえぎるものは何もなかつたのであるから、被告は前方ないし斜め前方に対する注視を欠いていたこととなる。また、原告は車道上に飛び出そうという気配を示さず、かえつて被告車を避けてやり過す行動をとつたのであるから、被告が衝突の危険を感じたとしても、それは被告の判断の誤まりによるものであり、さらに、被告は凍結に近い路面上で急ブレーキをかけるという横滑り必至の不適切な措置をとつた点にも過失がある。

理由

一  本件事故の発生

請求原因1、(一)の事実は、原告が被告車と接触転倒した事実を除いて、当事者間に争いがなく、そして右事実と成立に争いのない乙第三号証、同第五ないし第八号証、同第一〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は被告車の後部荷台の左側後部に接触して転倒し、この結果前記傷害を負つたことが認められ、右認定に対する反証はない。

二  被告の責任原因

1  被告が被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、別段の免責事由がないかぎり、自賠法三条に基づき被告は原告が本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  自賠法三条但書免責事由の抗弁

本件にあらわれた全証拠をもつてしても、本件事故の発生につき被告に過失なく、原告の過失によつて本件事故が生じたものであることを認めることができない。かえつて前掲乙号各証、成立に争いのない同第二号証並びに原告及び被告各本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、青森市方面から野辺地町方面に向かい東西に走る平坦な直線のアスフアルト舗装道路で、幅員七・八メートルその外側に幅三五センチメートルの無蓋側溝が設けられている。そして県公安委員会による最高速度の指定制限はない。しかし当時の道路状況は、吹雪のため見通しうる距離は約一〇〇メートルで、車道路上は積雪が固まつて滑走し易く、また、道路両側には除雪作業後の残雪が幅一・一メートル深さ約一〇センチメートルで残つていた。本件事故当時は早朝のため本件現場付近の歩行者はなく、通行車両も被告車の後方一〇〇メートルの距離に大型バスが追尾していたのみで対向車はなかつた。

(二)  本件事故現場の道路北沿は原告宅の庭となつていて、道路から庭を通つて同玄関に至るまでの距離は約七・四五メートルである。

原告は、自宅玄関から庭を通つて道路端まで小走りに出て、そのまま反対側にある青森市営バス停留所に行くため道路を横断しようとして、道路内に約一メートル入つた地点まで来たとき、被告車の警音器が二度鳴るのを聞いて、被告車が接近してくるのに気付いたので立止まり、これをやり過そうとして前記の残雪部分に踏込み、側溝の方に僅かに寄つて背を車道に向けた瞬間、突然背中から腰の後ろあたりを強打されて側溝に転落した。

(三)  被告車は、道路左側部分を左路端まで約一・五メートルの間隔をおいて東進し、本件事故現場付近に毎時四〇キロメートルの速度でさしかかつたところ、原告が自宅から道路に向つて小走りに出て来るのを左前方に発見し、原告がそのまま自車進路前方車道上に飛び出して来るものと判断して、とつさに警音器を鳴らし、続いてブレーキをかけると同時に右にハンドルを切つたところ、路面が凍結していたため被告車は後車輪が左方へ横滑りし、後部荷台の左後側部付近が原告に接触し、本件事故となつた。

右認定事実によると、被告車がそのまま直進を続けていれば、佇立していた原告の側方を約五〇センチメートルの余裕をおいて無事通過し、本件事故にならずに済んだものであつて、結局本件事故は被告車が横滑りを起したために発生したものであり、右横滑りは、積雪が固まつた滑り易い路面上でハンドルを切ると同時にブレーキを踏むという被告の不適切な運転操作によつて生じたものであると認められる。

ところで、被告は右のような運転操作をしたのは原告が急に車道上に飛び出しかけ、そのまま進行すれば原告と衝突するおそれがあり、これを避けるためにやむを得ずとつた措置である旨主張する。たしかに、原告が自宅玄関から道路へ小走りに出て来たことは前認定のとおりである。しかし、原告の挙動は飛び出しというほどの急激なものではなく、現に被告車の警音器の音を聞いて立ち止まつていることからして、とつさの回避運転操作を必要とするほどの緊急性があつたということはできず、とくに降雪が固まつて滑り易い路面上で急激なハンドル及びブレーキ操作をしてスリツプによつて車体の姿勢及び運動方向を制御できなくなるという危険を冒してまで避けなければならないほど衝突のおそれが強かつたとは認め難い。結局、被告は原告の挙動を見誤まり無用かつ不適切なブレーキ操作により本件事故を惹起したものと認められる。よつて、被告の前記主張は理由がない。

三  損害

1  原告の傷害治療経過と本件事故との因果関係

(一)  成立に争いのない甲第二ないし第四号証、同第一三号証(第一三号証は原本の存在についても争いがない)、同第一四号証の一、二、証人坂田義男の証言(第一、二回)原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに青森市民病院に対する調査嘱託の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告の入、通院による診療経過は、請求原因1、(二)記載のとおりであること(但し坂田整形外科医院における昭和五一年一一月一五日までの通院実日数は一一六日)。

(2) 原告は、前記金沢整形外科医院には腰部捻挫、骨盤挫創及び頸椎捻挫、青森市民病院には頸椎捻挫、腰部骨盤打撲と診断されて入院し、その治療を受けたが、右傷病はいずれも本件事故に起因するものであること。

(3) 次に坂田整形外科医院には頸椎捻挫、腰椎捻挫のほか、関節ロイマの傷病名で入院し、それぞれその治療を受け、退院後も通院を続けて、同様関節ロイマ(主症状左膝関節痛)と併せて腰椎捻挫による腰や背中の痛みの治療を受けてきたが、昭和五一年一一月一五日症状固定と診断され、爾後はもつぱら関節ロイマの治療のため通院を継続してきたこと、そして右頸椎及び腰椎捻挫は本件事故に起因するものであること。

以上のように認められ、青森市民病院に対する調査嘱託の結果(乙第一四号証と同一)中、右認定に反する部分は証人坂田義男の証言(第一、二回)に照らして採用し難く、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、前記金沢整形外科及び青森市民病院における入院治療はいずれも本件事故との間に相当因果関係のあることが明らかである。

(二)  そこで前記坂田整形外科の入通院治療と本件事故との因果関係の有無を検討する。

(1) 前認定の事実によれば、同医院に入、通院して受けた前認定の頸椎及び腰椎捻挫の治療については本件事故との間に相当因果関係があるものと認める。

しかし関節ロイマについては、成立に争いのない乙第一五、一六号証によると、慢性関節ロイマ(リユーマチ)の発生原因について、病因論として感染説、アレルギー説、栄養・代謝説・内分泌説、精神身体医学発症説、遺伝説などが唱えられているが、現在のところはいまだ不明であるとされていること、ただ、関節部その他の打撲捻挫などの外傷に起因して発症するとい例についての臨床報告や学説は存在しないことが認められ、また原告の治療にあたつた証人坂田義男医師もまた、同趣旨を述べて、原告の関節ロイマは本件事故と因果関係がない旨証言(第一、二回)しているのであつて、かかる証拠がある以上、原告においてさらに立証をつくして、関節ロイマが本件事故との間に相当因果のあることを推認させる資料を提出しない限り、たとえ原告本人が供述するように、本件事故前は関節ロイマの症状を呈したことがなく、本件事故後四か月位経てはじめて発症したものであり、また、本件事故のさい左ひざを打つた可能性があることが認められても、この一事をもつてしては、坂田整形外科医院に入院する少し前の頃に発症し、なお現在に至るまで持続している原告の関節ロイマ及びその治療と本件事故との間に相当因果関係を肯定することはできない。

また、負傷による入院という特殊な状況下の精神的肉体的なストレス状態によつて発症するという可能性もこれを認めるに足りる医学的な根拠に乏しい。

(2) 次にすすんで、前認定のように本件事故との間に因果関係が肯定される、坂田整形外科で受けた頸椎及び腰椎捻挫の治療が、因果関係のない関節ロイマの治療を除けば、それだけで入院を要するものであつたかどうかにつき検討する。

この点に関し当裁判所の青森市民病院に対する調査嘱託の結果によると、原告は、坂田整形外科に入院する直前、昭和四八年四月二六日青森市民病院を退院するさい、頸椎捻挫等の症状について、担当医師から頸部に軽度の圧痛を認めるも治癒したものと診断されたことが認められる。もつとも右診断中治癒とある部分は、証人坂田義男の証言(第一、二回)に照らし採用しないが、しかし同時に同証言によると、坂田整形外科が原告に対し頸椎及び腰椎捻挫の診断をくだしてその治療を施したのは、他覚的な異常所見に基づいたものではなく、もつぱら原告の自覚的愁訴によつたものであることが認められ、そしてこの事実に、前認定のとおり原告は坂田整形外科に入院するに至るまで、頸椎及び腰椎捻挫等について本件事故以来既に四か月以上にもわたつて継続して入院加療を受けてきていて、しかも、青森市民病院では、治癒との診断の信用性は別にしても、これ以上の入院加療は要しないとされて退院していることを考え合わせると、原告の坂田整形外科病院における頸椎、腰椎捻挫の治療に限つてみれば、入院したうえでの治療までは必要なく、三日に一度程度の定期的な通院による治療で十分であつたものと認めるのが相当であり、これに反する証人坂田義男の供述部分は直ちに採用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2  各損害項目

(1)  入院治療費 四二万四、三二〇円

前掲乙第五号証によると、原告は前記金沢整形外科の入院治療費として四二万四、三二〇円を支出し、同額の損害を被つたことが認められる。

(2)  付添看護費 七万六、八〇〇円

前掲甲第二号証、証人逢坂貞子の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は、前記金沢整形外科での入院期間六四日を通じて付添看護を必要とし、かつ、原告の母親による無償の付添看護を受けたことが認められるところ、その費用は一日あたり一、二〇〇円に換算し、その六四日分合計七万六、八〇〇円を損害と認める。

(3)  入院雑費 三万八、七〇〇円

前認定のとおり原告は金沢整形外科及び青森市民病院に通算一二九日間の入院生活を余儀なくされた。ところで右入院中の諸雑費についてはこれを遂一具体的に認定すべき証拠はないが、しかしこの種の諸雑費が入院によつて普段の生活の場合に比し増加を余儀なくされることは明らかであつて、本件傷害の内容、程度、入院期間等を斟酌すると、右入院中を通じて一日三〇〇円の支出を要したものと認められるから、その一二九日分合計三万八、七〇〇円を損害と認める。

しかし、坂田整形外科への入院については、本件事故と因果関係のない関節ロイマを除いて、因果関係のある頸椎及び腰椎捻挫の治療に限つてみれば、あえて入院を必要とするほどのものでなかつたことは前認定のとおりであるから、坂田整形外科入院分の諸雑費は本件事故と因果関係のある損害とは認められない。

(4)  休業損害 一〇五万九、八〇〇円

原告本人尋問の結果(第一回)並びにこれにより真正に成立したと認められる甲第六号証、同第七号証の一ないし四及び同第九号証によれば、原告は昭和四七年三月六日から青森市内の成田歯科医院に看護助手として勤務し、本件事故当時毎月二万九、〇〇〇円の賃金を得ていたが、本件事故後は欠勤し、その後昭和四九年四月末日退職後も現在に至るまで全然就労せず、この間収入を得ていないこと、次に原告と同年齢で、同時に同じ看護助手として同医院に就職し、同額の給与を受けていた訴外有馬悦子は昭和四八年一月以降同人が退職した昭和四九年三月までの間、別表中同期間欄に記載のとおりの額の給与、賞与等を得ていて、原告もまた勤務していれば、右期間中同額の給与等を受けることができ、さらにその後も別表中同年四月以降の各欄記載のとおり、逐次昇給し、かつ毎年六月及び一二月に賞与として本給一か月分に相当する賃金を合せて取得しえたほか、昭和四九年六月以降は主任手当の支給を受けえたものと推認され、この認定に対する反証はない。

そこで右事実と前記(一)で認定した原告の傷害治療の経過、症状の内容、推移等を考慮して、原告の本件事故による逸失利益について検討すると、次のとおりである。

ア 昭和四八年一月一日以降同年四月末日までの四か月間。右期間は前認定のとおり原告が本件事故による負傷の治療のため金沢整形外科及び青森市民病院に入院を要したため欠勤を余儀なくされたものであり、この結果同期間中に受け得べき賃金相当の損害を被り、その額は合計一二万六、〇〇〇円となる。

イ 昭和四八年五月一日以降昭和五〇年七月末日までの二七か月間。右期間は坂田整形外科入院期間に対応するものであるが、しかし前認定のとおり本件事故と因果関係のある頸椎及び腰椎捻挫の治療に限つてみれば、あえて入院を要するほどの症状ではなく通院で足りたものであり、そしてその症状の内容、程度、治療の程度及び負傷時からの年月の経過等を考慮すれば、右期間中就労しなかつたことによる逸失利益の全額を本件事故による損害と認めるのは相当ではなく、その間の原告の症状は、これを一律平均にならせばおおよそ服することができる労務が相当程度制限される場合にあたり、かつ、なお通院治療を要したことを斟酌して、右期間中の逸失利益合計一六二万七、六〇〇円の五〇パーセントにあたる八一万三、八〇〇円の限度において、本件事故と因果関係のある損害と認める。

ウ 昭和五〇年八月一日以降昭和五一年一〇月までの一五か月間。右期間は症状固定時までの坂田整形外科通院期間に対応するものであるが、前認定のような原告の頸椎及び腰椎捻挫に起因する症状の推移を考慮すると、もつぱら原告の訴えによる腰背部痛の神経症状があつて、若干就労が制限される程度のものであり、かつその間の通院実日数を勘案して、右期間中の逸失利益合計一一五万二、八〇〇円の約一〇パーセントにあたる一二万円の限度において本件事故と因果関係のある損害と認める。

(5)  慰藉料 一五〇万円

以上認定の諸事情に照らし、原告に対する慰藉料としては一五〇万円を相当と認める。

(6)  過失相殺及び損害の一部填補

本件事故発生の状況は、前記二、2で認定したとおりである。

右事実によれば、原告においても、接近してくる自動車がありながら、道路を横断しようとして道路端まで小走りに出てきた不用意な挙動が、被告をして原告が自車の進路前方にそのまま飛び出してくるものと速断させ適切さを欠いた運転操作(回避措置)をとらせるに至つた一因をなしたものと認められるから、この点原告にも損害の公平な分担という見地から賠償額の決定につき斟酌すべき過失があるものと認める。

そこで、原告の前記(1)ないし(5)の各損害金合計三〇九万九、六二〇円について、原告の前記過失を斟酌し、その約一割にあたる額を控除し、被告に賠償の責を負わせるべき損害額は二七八万円をもつて相当と認める。

そして、原告が本件事故について自賠責保険金五〇万円及び被告から見舞金五、〇〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、結局未だ填補されない分は二二七万五、〇〇〇円となる。

(7)  弁護士費用 二五万円

原告が本訴追行を弁護士に委任したことは訴訟上明らかであり、弁論の全趣旨によれば原告は右の費用として請求認容額の一割を支払うことを約したことが認められるところ、本件事案の内容、訴訟経過、認容額等諸般の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係にあるものとして被告に請求しうべき分は二五万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は不法行為による損害賠償として金二五二万五、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年五月一五日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次 吉武克洋 池谷泉)

別表

<省略>

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